ずいぶん前置きが長くなりましたが、小菅優さんのピアノ演奏は素晴らしかったです。
〜演奏後のメモより〜
「ピアニスト(独奏者)には演奏家と指揮者の両方の能力が必要とされると思うが、小菅さんは指揮者としての能力が特に優れていると感じた。
テンポ感覚がとても良く、緩急、強弱の使い分けと滑らかな移行が巧みだ。その曲が持つ音楽性をどう展開させれば最大限生きてくるか、と
いった視点が豊かにあり、それを再現する器用さを持ち合わせている。
32番のアリエッタも素晴らしかった。変奏の繰り返しをゆったりとしかし飽きさせずに聴かせ、
沈み込むような中盤から主題がトリルを従えて回帰するクライマックスまで壮大さを失わずに描き切ってくれ、
いわゆる名盤たちのもつ“おさえて欲しいツボ”を90%の確率でおさえた演奏をしてくれた。
今回、彼女の演奏を初めて聴いたが、若くして評価されるだけのことはある、と感じた。
不満がなかったわけではない。ピアノの音色が印象に残らなかった。一流演奏家の演奏を聴いていると、楽器が嬉しそうに鳴っているなぁ、と
しばしば感じるが、小菅さんのピアノからは、そういう感じがしなかった。
音楽の解釈と展開とその再現力は見事だったが、ある意味、優等生的であったともいえる。
いろいろと優れた過去の遺産を受け継いで自分のものにできるのは素晴らしいが、では自分はどうしたいのか、
ピアニストとしてピアノという楽器にどう取り組み、この楽器の可能性をどのように最大限に生かして音を響かせようとしているのか、
と、いう感じがもうひとつ伝わってこなかった。
独奏家に必要な指揮者としての能力が際立って感じられたのは、演奏家としての側面に少し物足りなさを感じことも一因かもしれない。
しかし、今後とも期待したいピアニストであることには間違いない。聴けて良かった。」